藤沢北部の農園「ゆうのうえん」。「不耕起栽培(畑を耕さない栽培方法)」「農薬、肥料不使用」でつくられた野菜は、どれも味が凝縮していて余計な調味料いらず。時間も手間もかかる自然な農法で栽培している理由について、代表の宮本陽子さんに伺いました。
みなさんは、「不耕起栽培」という野菜の育て方をご存知ですか?
普段はなかなか耳にしない言葉かもしれません。
「不耕起栽培」とは、字の如く、畑を「耕さない」栽培方法。
多様な植物と微生物が共生する土壌に、自分の力で根を張り、養分を吸いあげる野菜は、たくましく育ち、味もぎゅっと凝縮されたものになるんだそう。
そんな畑づくりを実践しているのが、藤沢北部に位置する「ゆうのうえん」。
野菜が育つすぐ隣には野草が根を下ろし、わたしたちがよく知る整備された畑とは違った、野性味溢れる風景が広がります。
不耕起栽培をするために必要なのは、なんと言っても「いい土」。
代表の宮本陽子さんが、地道にいい状態に導いたという畑の上には、小さくて可愛いらしい紫色の花が。
「これは、ホトケノザと言って、バランスの取れた土を好む野草なんです。土壌がよくなってきた証拠なので嬉しいですね」。
ゆうのうえんで栽培されているのは、ニンジン、レタス、さつまいも、大根、じゃがいもなどの定番野菜と、パクチーなどのハーブ類。
地域の方向けの野菜の宅配「ニンジンバトン」では、宮本さんが大好きだというニンジンをメインに、旬の野菜が届きます。
「お客さんからは、『甘さが濃くて、何度でも食べたくなる』『切って焼くだけでおいしいので、余計な味付けがいらない。料理が好きになった』といった声をいただきます」と宮本さん。滋味深い味わいを求めて、繰り返し購入する方も多いのだとか。
農薬や肥料を使用せず栽培した野菜は、離乳食がはじまった子どもを持つ親御さんや、妊婦さんなど、食品の安全に気を使う方からの支持も得ています。
「うちで採れたものを食べていれば、自然と気持ちよく過ごせて藤沢の自然も守られる。そんな野菜を目指してつくっています」
畑が大規模ではない上にすべて手作業で手間暇がかかる育て方をしているため、収穫量は少ないそう。ですが、「わたしの姿勢に共感してくれる方の元に届けられているので、とてもやりがいがあります」と宮本さんは笑顔で話してくれました。
農作業をするのは宮本さんひとりですが、畑はいつも賑やか。
野鳥やカエルの声が聞こえるのはもちろん、近所の子どもたちが日常的に畑に遊びに来るんだとか。
「遊んでいる間に野菜を踏んでしまったりしないんですか?」と訊ねると、
「子どもたちは賢いから『ここはお野菜のベッドだから踏まないでね』と言っておくと、上手によけて遊んでくれます。子どもが土に触れてくれるのは、むしろすごく嬉しいことですね」と宮本さん。
「いろいろな人が畑に遊びに来て、土に触れてほしい」との思いのもと、環境教育のためのイベント「畑の学校もくど」や、マルシェなどを開催し、老若男女に畑を広く開放しています。
先日行われたイベント「ゆうのうえん春分祭 2023」では、マルシェや映画上演などが同時開催された
畑を開放するもう一つの理由は、「藤沢北部の良さを知ってほしい」という思いから。
藤沢北部は農業が盛んで自然も豊か。宮本さんは「もっと多くの人に足を運んでもらいたい」と考えながら、人が集まれる場所がないことに課題を感じていたのだそう。
「わたしも結婚してから藤沢に住み始めたのですが、北部には用事がないと来なかったです。普段は通り過ぎるだけの地域というか。でも、畑を借り、土地の豊かさを知って、もっと多くの人にここの良さを知ってほしいと思いました。ゆうのうえんがその発信の場所になれば」
その活動は、農園に足を運んでくれる地域の方々を増やし、着実に実を結んでいるようです。
「ゆうのうえん」の名前の由来は、「U あなた」「KNOW 農・知る」「EN 縁・円」。
野菜を通して、生きていく上で密接に関わる「食」について知る。
もっと知りたいと思ったら、畑に聞きに行く。
オープンな農家が身近にあることが、あなたの食をもっと豊かにしてくれるかもしれません。
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【プロフィール】
宮本陽子さん
鹿児島見出身。実家は農家、近くの海によく遊びに行くなど、自然と身近な土地で過ごす。幼少期から環境問題に強い関心があったのだとか。小学校の教員を経た後、ゆうのうえんを立ち上げ。好きな野菜はニンジン。